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車 の こ と

Lee's Essay
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両親ともに車は運転しない。家族が今ひとつ乗り気でないため未経験な自分が陣頭に立たなければならない。まだまだ寒い2月下旬、揃って近所のディーラーへおもむいた。エコカー補助金が復活し減税の恩恵も受けられる今がチャンス!荷物がたくさん積めそうな、やや大きめのコンパクトカーに決める。3月あたま納車の運びとなった。

ついにわが家に車が来る!ペーパードライバー歴うん十年。年末に教習所で講習は受けたものの、実際に自分の車を運転するのは生まれて初めて。ディーラーの若い男性を助手席に、緊張して1キロほどの自宅へと向かった。

出来たてホヤホヤの駐車場に着きディーラーを降ろすと、サポートを受けながら車庫入れに臨む。慣れないバックでアクセルを踏むと、道路との段差に後ろのタイヤが引っかかった。乗り越えるには更にアクセルを踏まなければならないが、加減がわからない…父親が周りをウロチョロする…ディーラーの『どうぞ』の声に『えい、ままよ!』思い切り右足を踏んだ…!

グワシャ〜ンン‼‼支柱に激突し見事に陥没。車にもわずかなへこみが(泣)。こうして記念すべき日に初めての事故を起こしたのだった。

いよいよ本作業だ。家の土台は道路から1メートルほどの高さにある。その分の土を掘り起こしくり抜くために、我が家の庭にブルドーザーが入った。運転はかなり年配の職人さん。(大丈夫か)方向転換がやっとの広さにキャタピラーがうなりをあげ突き進む。

道路から見て凸型にくり抜かれた予定地にロープが張られた。その昔庭のために運ばれた土の下にさらに固い層があったので、撤去した土は予定より大幅増。ダンプカーが何度も往復し、いやでも近所の注目を集める。

土台が敷かれ支柱と屋根が取り付けられるとだんだん駐車場らしくなってきた。すっかり職人さんと馴染んだ母は、縁側でくず湯を振る舞いご機嫌も回復。ミキサー車が来て生コンが張られ養生すれば完成も近づく・・・。

と思われたが最後にクレーン車登場!首長竜のようなアームで土を運び、駐車場の周囲を埋め戻す。猫のひたいほどの庭に何というスペクタクルだ。

養生が終わり乾いたら車止めと手すりを付けて完成。「出来たね〜」通りすがりのご近所の奥さんに声をかけられ照れ笑い^^;
やっとこ車の購入にこぎつける。











再び教習所の門をたたき車庫入れの補講を受ける。支柱の修理と段差の補修は馴染みの職人さんに依頼した。

これがきっかけで庭が野菜畑に変わろうとはまだ知るよしもなかった・・・。



庭が出来たのはかれこれ40年ほど前である。両親があれやこれやと樹木を植え、おまけに庭石をいたるところに配した。というと結構なお屋敷のようだけれどほったらかしなので荒れ放題。植物のみならず入谷で買った朝顔の支柱や植木鉢、昔の花壇のレンガなど、長年使わず風化したものまで散乱しているありさま。(近くに貝塚がありかつては貝がらや縄文式土器のかけらも混ざっていた)

そんな庭の真ん中に駐車場を作ろうと思い立ったのは片付けるのが目的ではない。毎年暮れにやって来る植木屋のおじいさんに、大木を避けるよう進言されたからである。西側の塀際には二階に届くほどのもみじが二本植わっていて、秋に燃えるような色に染まる。(うち一本は春にも真っ赤に色づくけれど落葉しない、通称"たぬきもみじ"ー植木屋さん曰くだが)

「た〜いへんさ、おっきいやつの根っこを抜くのは…そのあいだに作ればいいっぺ、夏は涼しいヨ〜」

かくして隣家と接する角地ではなく庭のほぼ中央に建設が決まり、年明けに打ち合わせ、2月から工事が始まった。中心にはかつて芝生があったけれど様々な植物に占領され今はあとかたもない。中でももらい物の外来種"ブラシの木"はひときわ大きく育ち、夏に異様な赤いブラシ状の花を咲かせていた。建設にあたり何本かは移植か伐採をしなければならない。その選別に登場したのが母親だった。

予定地には当時引っ越し祝いに父方の伯母からもらったヒバが含まれていた。移植にも費用がかかるため、数本を選び出し木の幹に目印のテープを貼っていく。母はあれも残せ、これもかわいそうと大騒ぎ。普段は知らん顔のくせにいざとなると涙目で幹にしがみつき懇願する。業者との板ばさみになるこちらは辛い。

ようやく残す木が決まったものの、自分もどちらかというと捨てられない性分。春を待つサツキの株がいっぱいにつぼみを付けていたのには胸が痛んだ。西側のソテツは形見にひげを取り写真におさめる。マーキングした数本は適当なスペースを探して散り散りに植えられた。

Lee's Essay(エッセイ)   ー2012ー