突然店内が騒がしくなりました。二十歳くらいの女の子三人が黄色い声をあげて入って来たのです。セルフサービスなので先に二人が注文している間に、一人が奥の席を取るため通路を通り過ぎました。灰色の物体には全く気づいていないようです。

 

   新聞を見ていたおじさまが突然目を上げると、席をとっていた一人に話しかけました。「君ら若いのは一人の時、携帯電話で席をとったりするね?」

「はあ

「それ以外にハンカチや帽子のときもあるだろ?」

「ええ、まあ、そうですね」

女の子は早く注文の二人に来てほしそうでした。

「ちょっと聞きたいんだが、もしかして、駝鳥の卵のおもちゃが今流行ってるの?」

 

「こっちこっち!」

女の子は質問には答えず、トレーを持ってきた二人に手を振りました。

   さっきから店員がこよりさんの隣のテーブルを拭いていました。彼女は二人と通路ですれ違い、灰色の卵が置いてあるテーブルに向かいました。そしてドキドキして見つめるこよりさんの目の前で、卵を持って椅子に立つと、裸電球にクルクルとかぶせたのでした

            

  あれは何だろう。通路を隔てたテーブルの上に奇っ怪な物が置いてあった。土台は丸く上はとんがり、作り物のロウソクの炎のようだ。高さは20cm位で灰白色の磨りガラスに所々斑点が見える。

 

  こよりさんはいつもの駅で降りお決まりの喫茶店に入りました。先客がいなければ角のソファ席に座って、アイスピーチティーを飲むのが日課でした。夏の夕方はずいぶん日が伸び、西陽で店内は少しむっとします。一つ置いた席にはきのうと同じく、初老の白髪のおじさまが眼鏡を凝らして新聞に見入っていました。

 

 きっと誰かが席を取るのに置いているんだわ。傘だったりハンカチだったり帽子だったり、感心しないけどスマートフォンの時もあるし・・・こよりさんは常識的な想像をしてみましたが、どうもしっくりきません。

 

  それとも子供のおもちゃかもしれないな。駅前のスーパーには食べ物や日用品の他に、本屋とゲームコーナー、パソコン教室にスポーツクラブまである。子供の遊ぶ物に事欠かないし。中におもちゃが入ったやつだったりね。昔そんな卵型の景品があったっけ。

 

  

 

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灰色の卵
(The Gray Egg)